2026年8月13日に公開した「雨漏りの原因は屋根だけじゃない?見落としがちな5つの侵入経路」では、雨漏りの侵入経路が屋根以外にも複数あることを紹介した。あれから3週間、台風シーズンが本格化してきたこのタイミングで、今回はその中の一つの現象に絞って深く掘り下げる。「天井のシミの真上を疑って直したのに、また同じ場所が濡れた」というケースが後を絶たない理由についてである。
「シミの真上」を直しても止まらない雨漏りがある
工場や倉庫の天井に雨染みを見つけたとき、多くの人がまず疑うのはシミの真上にある屋根材だ。そこにコーキングを打ち増しし、それで様子を見る。ところが次の台風でまた同じ場所が濡れる。この記事を読んでいる方の中にも、心当たりのある方がいるのではないだろうか。
この「直したはずなのに再発する」という失敗の多くは、施工の技術不足ではなく、そもそも疑う場所を一段階間違えていることに起因する。水は必ずしも真下に落ちるとは限らないからだ。
水は横にも、時には上にも流れる
雨水の浸入口と、実際に染みや水滴となって現れる場所が一致しないことは珍しくない。一般社団法人日本防水協会は、水が漏出する箇所の直上に必ずしも侵入口があるとは限らない理由について、「水は低い方向ばかりでなく横方向、時には上方向にも流れていくことがあるため」と説明している。屋根の下地材や梁を伝って移動した水が、侵入口から離れた場所で初めて滴り落ちる。これが「伝い漏り」と呼ばれる現象である。
この構造を知らずに染みの真上だけを補修すると、実際の侵入口はそのまま残り、次の雨でまた水が伝ってくる。専門業者が現場で行う散水試験は、この伝い漏りを踏まえたうえで侵入口を一箇所ずつ絞り込む調査手法だ。疑わしい箇所に着色した水を順番にまき、どこから、どのくらいの時間で、どこに水が現れるかを確認していく。複数箇所が疑われる場合は水に異なる色を付け、入口と出口の対応関係を明確にする方法も使われている。つまり、シミの位置だけを見て原因箇所を特定するのは、専門の調査手法から見ればまだ途中の段階にすぎない。
工場・倉庫で特に見落とされやすい「谷樋」という盲点
伝い漏りが起きやすい代表的な部位が、屋根と屋根がV字に交わる「谷樋(たにどい)」だ。谷樋は複数の屋根面から流れてきた雨水が一箇所に集中する排水路であり、屋根修理会社の株式会社やまもとくんは、屋根のなかでも最も負担が大きい場所の一つと位置づけている。M型屋根や複合形状の屋根を持つ工場・店舗で発生しやすいという指摘も、屋根修理を手がける株式会社ウチダから出ている。
谷樋で雨漏りが起こる典型的な流れは次の通りだ。
- 落ち葉やゴミが谷樋に溜まり、排水がせき止められる
- 経年劣化で谷板金にゆがみが生じ、水が抜けきらずに滞留する
- 滞留した水が板金の継ぎ目や小さな穴から下地に浸入する
- 浸入した水が梁や下地材を伝い、谷樋から離れた場所の天井に染みとなって現れる
屋根修理を手がける株式会社テイガクも、谷樋を「雨水が集中するため雨漏りが発生しやすい部分」として挙げているほか、面戸(めんど)部分のコーキング処理の誤りなど、施工段階のミスが原因になるケースがあることも指摘している。谷樋は屋根の上から見ても平坦に見えるため、点検の際に「異常なし」と見過ごされやすい。目視だけの点検で済ませてしまうと、板金のわずかな歪みや継ぎ目の劣化までは確認しきれないことが多い。
工場・倉庫の屋根に谷樋が生じやすいのは、建物の規模が大きくなるほど、一枚の大きな屋根ではなく複数の屋根面を組み合わせた形状(M型・複合形状)で設計されることが多いためだ。屋根面が増えれば、その分だけ屋根面同士が接する谷の数も増える。谷樋は複数の屋根面から流れ込む雨水を一箇所に集めて排水する構造上、単純な片流れ・切妻屋根に比べて排水の負荷が集中しやすい。工場・倉庫が戸建て住宅よりも谷樋由来の雨漏りに直面しやすい背景には、こうした屋根形状そのものの違いがある。
なぜ今、この話を掘り下げるのか——2026年の台風シーズン
気象庁の統計によれば、2026年は9月1日時点ですでに24個の台風が発生している。月別では8月だけで10個が発生しており、台風シーズンはこれから10月にかけてが本番となる。谷樋の詰まりや板金の歪みは、普段の小雨では表面化しないまま気づかれず、まとまった雨量と強い風を伴う台風のタイミングで初めて水があふれて表面化することが多い。裏を返せば、「これまで雨漏りしたことがない建物」であっても、谷樋に排水能力の余裕がなくなっている可能性は、台風が来るまでは見えない。8月の記事で紹介した5つの侵入経路のうち、谷樋はその見えにくさゆえに、点検のたびに後回しにされがちな部位でもある。
建物管理者が最初に確認すべきポイント
谷樋由来の雨漏りが疑われる場合、専門業者に調査を依頼する前に、建物管理者自身でも確認できる点がいくつかある。
確認ポイント | 見るべき内容 |
|---|---|
天井の染みの位置と形 | 染みが直線的に伸びている、または複数箇所に点在している場合は、水が伝って移動している可能性がある |
屋根の形状 | M型屋根や、複数の棟が接続した複合形状の屋根には谷樋が存在することが多い |
谷樋周辺の落ち葉・ゴミ | 安全に確認できる範囲で、谷樋部分にゴミや落ち葉が堆積していないか |
雨天時の様子 | 強い雨や台風の際に限って染みが広がるかどうか(普段の小雨では出ないことが多い) |
ここで一つ、向いていないケースも述べておく。天井の染みが特定の1点に集中しており、屋根の形状に谷樋が存在しない建物の場合、原因は谷樋ではなく空調配管の結露や、給排水管からの漏水である可能性の方が高い。屋根だけを疑って業者に調査を依頼すると、本来確認すべき設備配管を見落とし、対応が遠回りになることがある。染みの位置が屋根の直下から明らかにずれている、あるいは配管が近くを通っている場合は、雨天時以外にも水が出ていないかをまず確認してほしい。
点検のタイミングを見直す
谷樋の詰まりや板金の歪みが強い雨のときにしか表面化しないという性質を踏まえると、点検のタイミングにも工夫の余地がある。台風や大雨が来た「後」に被害箇所を確認するのはもちろん必要だが、それだけでは後手に回る。台風シーズンが本格化する前の時期に、谷樋周辺の堆積物の有無だけでも確認しておけば、シーズン中に排水が追いつかなくなるリスクをあらかじめ把握できる。逆に、点検を雨漏りが実際に発生してからの対応に限定してしまうと、伝い漏りによって被害箇所が屋内で広がってから気づくことになりやすい。
専門業者に依頼する際に伝えておきたいこと
調査を依頼する際、次の情報を伝えておくと、散水試験のあたりをつけやすくなる。
- 染みが最初に気づかれたのはいつ頃か
- 強い雨・台風のときだけ出るのか、小雨でも出るのか
- 染みの位置は変化しているか、同じ場所にとどまっているか
- 過去に補修した箇所があれば、その場所と内容
これらは「侵入口の候補を絞り込む」ための材料であり、逆に言えば、この情報が無いまま「とりあえずシミの真上を塗って様子を見る」対応を繰り返すと、伝い漏りの構造上、同じ場所への再発を防げないことが多い。
当社の対応について
株式会社IESは、公式サイトで「雨漏りの原因を特定し、確実な修繕をおこないます」というサービスを掲げている。谷樋や伝い漏りのように、シミの位置だけでは判断がつきにくいケースこそ、原因の特定という工程を省かずに進める意味がある部分だ。お手元の建物で「直したはずなのに同じ場所が濡れる」という状態が続いている場合は、公式サイトの問い合わせ窓口、またはメール(ies-kyoto@ies-japan.co.jp)から状況をご相談いただきたい。
よくある質問
Q1. 谷樋の点検は自分でもできますか?
安全に登れる範囲であれば、ゴミや落ち葉の堆積の有無は確認できる。ただし板金のわずかな歪みや継ぎ目の劣化は目視だけでは判断しづらく、屋根の上での作業には転落のリスクも伴うため、無理をせず専門業者に確認を依頼することをおすすめする。
Q2. 台風の後でないと雨漏りは分かりませんか?
谷樋の排水能力が落ちている場合、通常の雨では表面化せず、台風のような強い雨量・風のタイミングで初めて水があふれることが多い。そのため、台風シーズン前の点検で谷樋周辺の堆積物を確認しておくことには意味がある。
Q3. 天井の染みの真上を補修したのに再発します。なぜですか?
水が下地材や梁を伝って横方向・上方向にも移動する「伝い漏り」という現象があり、実際の侵入口が染みの位置から離れていることがあるためだ。散水試験など、侵入口を一箇所ずつ絞り込む調査を行わないと、補修箇所がずれたままになる可能性がある。
Q4. 谷樋がない屋根なら、この記事の内容は関係ありませんか?
谷樋そのものは平屋根や単純な切妻屋根には存在しないため、その場合は該当しない。ただし「伝い漏り」自体は谷樋に限った現象ではなく、外壁のクラックやサッシまわりなど別の侵入経路でも起こりうる。8月の記事で紹介した5つの侵入経路とあわせて確認することをおすすめする。
参考文献・出典
- 気象庁「台風の発生数」 URL: https://www.data.jma.go.jp/typhoon/statistics/generation/generation_j.html 参照日: 2026年9月2日
- 一般社団法人日本防水協会「雨漏り・漏水の原因調査の方法と特徴」 URL: https://bousui-association.jp/contents05/ 参照日: 2026年9月2日
- 株式会社やまもとくん「雨漏りの原因ランキングTOP10」 URL: https://yamamotokun-tosou.com/amamorigenin-ranking/ 参照日: 2026年9月2日
- 株式会社ウチダ「その雨漏り、谷樋からかも!?」 URL: https://www.uchida-yane.com/blog/factories/tanidoi/ 参照日: 2026年9月2日
- 株式会社テイガク「工場・倉庫の雨漏り修理」 URL: https://yanekabeya.com/158353/ 参照日: 2026年9月2日
- 株式会社IES 公式サイト「サービス案内」 URL: https://ies-japan.co.jp/services/ 参照日: 2026年9月2日