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はさまれ・巻き込まれ災害はなぜ増えたのか?安全カバーを現場ごとに設計する理由

公開日 最終編集日
設備の安全カバー設計・導入 安全対策

工場の労働災害は、実は全体としては減っています。厚生労働省が2026年5月に公表した「令和7年の労働災害発生状況」によれば、2025年の労働災害による死亡者数は700人で、統計を取り始めて以来「過去最少」を更新しました。ところが同じ統計の中で、「はさまれ・巻き込まれ」による死亡者数だけは117人と、前年より7人・6.4%増えています。全体が減っているのに、この災害類型だけが増えている――この逆行は、偶然の数字のブレとして片付けてよいものではありません。

この記事では、なぜ「はさまれ・巻き込まれ」対策が他の災害以上に難しいのか、そして安全カバーを「現場ごとに設計する」とはどういうことかを、法令が定める安全対策の優先順位から順に解説します。既製品のカバーを付けて終わりにしている現場と、個別設計まで踏み込む現場の違いが分かる内容です。

なぜ「はさまれ・巻き込まれ」だけ増えているのか

厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」によれば、2025年(1〜12月)の労働災害全体の死亡者数は700人で前年比46人減、休業4日以上の死傷者数は135,333人で前年比385人減とほぼ横ばいでした。一方で「はさまれ・巻き込まれ」による死亡者数は117人で前年比7人・6.4%増と、全体の傾向に逆行しています。

この対比が示しているのは、転倒や墜落・転落といった災害は対策が広く浸透してきた一方で、「はさまれ・巻き込まれ」は依然として現場ごとの個別対応が追いついていない領域だということです。理由の一端は、この災害が起きる場所にあります。転倒や墜落は歩く場所・作業する高さという比較的単純な条件で発生しますが、はさまれ・巻き込まれは機械の駆動部という、機種・設置場所・作業動線によって形も位置も毎回違う場所で起きます。

安全対策には優先順位がある——カバーはどこに位置するか

厚生労働省は「機械の包括的な安全基準に関する指針」(2007年改正、国際規格ISO12100の考え方を踏まえたもの)で、機械の危険源対策を次の優先順位で行うよう定めています。

  1. 本質的安全設計方策:危険源そのものを設計段階で除去・低減する(角を丸くする、動作速度を落とす等)
  2. 安全防護・追加的保護方策:ガード(安全カバー)、インターロック、非常停止装置などで人と危険源を隔離する
  3. 使用上の情報:警告表示や作業手順書など、残ったリスクを利用者に伝える

この順番には理由があります。人の注意力や手順の遵守に頼る対策(3番目)は、疲労や慣れによって機能しなくなる瞬間がいずれ来ます。設計そのもので危険源を消せない(1番目が使えない)以上、機械と人の間に物理的な隔離を作る2番目の安全防護——つまり安全カバーやガード——が、現実的に機能する対策の中心になります。ここで押さえておきたいのは、安全カバーは「万能の解決策」ではなく、本質的安全設計ができない部分を補う対策だという位置づけです。駆動部の露出そのものを設計変更でなくせるなら、まずそちらを検討すべきで、カバーの追加はその次の手当てです。

既製品のカバーで対応しきれない理由

安全防護が2番目の優先順位だとしても、「カバーさえ付ければよい」わけではありません。同じ「モータのカバー」でも、現場によって次のような条件がすべて異なります。

  • 作業者が日常的に点検・給油のために手を入れる位置(頻繁に開閉する動線)
  • カバー越しに動作状態を目視確認する必要があるか(視認性の要件)
  • 周囲の配線・配管との干渉(電気的な取り回しを含めた設計が必要になる場合がある)
  • 粉じん・油・熱・振動など設置環境による耐久性の要件
  • メンテナンス時にカバーを外す頻度と、外しやすさ・戻しやすさ

既製品・汎用品のカバーは、これらの条件のどれか一つに合わせて作られています。現場でよく起きる失敗は、「挟まれ防止」という目的だけを満たした汎用カバーを取り付けた結果、点検のたびにカバーを外さなければならず、外したまま運転してしまう、あるいは視認性が悪く結局作業者がカバーの隙間から手を入れてしまう、というものです。安全のために付けたカバーが、運用の実態と合わずに形骸化する——これが「はさまれ・巻き込まれ」対策が他の災害対策より難しい理由の核心です。

現場ごとに設計するとは、具体的に何をすることか

株式会社IESの「設備の安全カバー設計・導入」サービスでは、「安全対策は、現場ですべて対応が異なります」という考え方に基づき、作業性・視認性・耐久性・メンテナンス性を考慮した設計を行っています。対象としているのは、駆動部(モータ部分)のカバー、安全柵、メンテナンス用の階段・架台、挟まれ・巻き込まれ防止が必要な機械などです。

ここで押さえておきたいのは、「現場ごとの設計」が意味するのは奇抜な形状を作ることではなく、前の章で挙げた5つの条件(動線・視認性・配線干渉・耐久性・着脱性)を、その機械・その現場に合わせて一つずつ確認し、優先順位を付けて設計に反映する作業だということです。特に配線・配管との干渉は見落とされがちで、カバーの形状だけを機械的に決めると、後から電気配線のために結局隙間を開けることになりかねません。当社は空調・電気・管工事を手がけているため、メカ的なカバー製作だけでなく、電気的な取り回しも含めた設計を同じ窓口で検討できる点が特徴です。

安全カバーの限界——向かない条件・不要な条件

ここまで個別設計の必要性を説明してきましたが、すべての現場で個別設計が必要になるわけではありません。次のような場合は、まず別の選択肢を検討すべきです。

  • 本質的安全設計で解決できる場合:機械の更新・改修の余地があり、危険源そのものを設計変更で除去・低減できるなら、カバーの追加ではなくそちらが優先されます。前述の指針が定める順位はこの記事でも変えられません。
  • 標準的な既製ガードで条件を満たせる場合:点検頻度が低く、視認性の要件もなく、配線干渉もない駆動部であれば、個別設計にかけるコストと時間は不要です。既製品で足りる部分にまで個別設計を持ち込むのは、読者にとって過剰な提案になります。

では読者は何を見て判断すればよいか。目安になるのは「その駆動部を、月に何回、誰が、どんな理由で開閉するか」です。開閉頻度が低く担当者が固定されているなら既製品で足りる可能性が高く、開閉頻度が高い・複数の作業者が関わる・視認確認が必要——のいずれかに当てはまるなら、個別設計を検討する価値があります。

自己点検チェックリスト

自社の設備を見直す際は、次の項目を確認してみてください。

 □ 駆動部のカバーは、点検のたびに完全に取り外していないか(外したまま運転していないか)
 □ カバー越しに動作状態(発光・表示・振動音など)を確認できるか
 □ カバー周辺の配線・配管が、カバーの開閉や設置の妨げになっていないか
 □ 設置環境(粉じん・油・熱・振動)に対して、カバーの素材・固定方法は十分か
 □ 非常停止装置・インターロックなど、カバー以外の安全防護と役割分担ができているか
 □ 機械そのものの更新・改修で危険源を減らせる余地がないか、先に検討したか

このうち一つでも「いいえ」があれば、既製品の追加購入ではなく、現場条件から見直す設計変更を検討する余地があります。

まとめ

労働災害全体が過去最少を更新する一方で、「はさまれ・巻き込まれ」だけが増加しているという厚生労働省の統計は、この災害類型が「対策済み」にはまだ遠いことを示しています。安全カバーは、法令が定める優先順位の中では危険源そのものを消せない部分を補う「安全防護」に位置づけられ、既製品では現場ごとの動線・視認性・配線条件のすべてを満たすことは難しい場面があります。まず本質的安全設計の余地を確認し、それでも残る危険源に対して、現場条件を洗い出した設計でカバーを検討する——この順番を守ることが、形骸化しない安全対策につながります。

株式会社IESでは、駆動部カバー・安全柵・メンテナンス用階段や架台などについて、設計・製作・取付までを一貫して行っています。空調・電気・管工事も手がけているため、カバーの形状だけでなく配線・配管の取り回しを含めた相談も可能です。自社設備の安全対策を見直したい場合は、下記よりお問い合わせください。

株式会社IES 公式サイト


参考文献・出典

  1. 厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況を公表」 URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73382.html 参照日: 2026年9月3日
  2. 厚生労働省「機械の包括的な安全基準に関する指針」(基安安発第0731004号) URL: https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001408310.pdf 参照日: 2026年9月3日
  3. 株式会社IES「設備の安全カバー設計・導入」 URL: https://ies-japan.co.jp/services/industrial-safety-cover/ 参照日: 2026年9月3日
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