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省エネ法とサプライチェーン開示の時代、遮熱塗装は何に効くか

公開日 最終編集日
遮熱塗装

「屋根を白く塗ると涼しくなる」という話は、工場・倉庫の現場ではすでに一般的な知識になりつつあります。ただし、2023年の省エネ法改正、そして大手企業の取引先に広がりつつあるサプライチェーン排出量(Scope3)の開示要請という2つの動きを踏まえると、遮熱塗装は「夏を涼しく過ごす工事」から一段違う位置づけに変わってきています。この記事では、遮熱塗装が効くメカニズムを物理現象として整理したうえで、それがどこまで省エネ法対応やSDGs・脱炭素対応に結びつくのか、逆にどこまでは結びつかないのかを、当社が施工を手がける立場から具体的に切り分けます。

工場・倉庫の担当者が置かれている状況

製造業の現場では、電気代の高止まりに加えて、脱炭素対応そのものが取引条件の一部になり始めています。大手企業がSBT(Science Based Targets)などの排出削減目標を掲げる場合、自社の直接排出(Scope1・2)だけでなく、原材料の調達先や外注先を含めた「サプライチェーン排出量(Scope3)」の把握が求められます。その結果、取引先である中小の工場・倉庫にも、排出量の算定や削減の取り組みについて情報提供を求める動きが広がっています。上場企業を中心に、2027年3月期から一部でサステナビリティ情報の開示が制度化される流れもあり、この動きは今後さらに取引先へ波及すると見られています。

一方で、省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)そのものの定期報告義務は、年間のエネルギー使用量が原油換算1,500キロリットル以上の「特定事業者」が対象です。多くの中小規模の工場・倉庫は、単独ではこの基準に達しません。つまり、屋根の遮熱塗装を検討する担当者の多くは、「自社が法律上の直接対象になっているか」よりも、「取引先から間接的に求められる情報提供・削減要請にどう応えるか」という、もう一段静かな圧力の中で判断を迫られているのが実情です。ここを混同すると、過大な法対応を訴求してしまうため、本記事では明確に分けて扱います。

遮熱塗装がSDGs・省エネに効く理由を、原理から説明する

屋根表面温度と冷房負荷の関係

遮熱塗装が担っているのは、太陽光(主に近赤外線)の反射率を高め、屋根材が吸収する熱量そのものを減らすことです。屋根表面は日射を受けると外気温より大幅に高くなり、鋼板屋根では夏季に60℃前後に達することも珍しくありません。この熱が屋根裏や室内に伝わることで、空調(冷房)の負荷が増えます。日本塗料工業会が公開している資料は、遮熱塗料の使用により夏季の屋根表面温度が最大20℃程度低下すると示しており、複数の実証実験でも同様の傾向が確認されています。ここまでは、塗料の反射特性という確立された物理現象の範囲であり、当社が扱う遮熱塗料に限らず、日射反射率の高い塗料であれば共通して働くメカニズムです。

「電気を減らす」と「CO2を減らす」をつなぐ一手間

冷房負荷が下がれば使用電力量が下がり、電力会社ごとに定められた排出係数を掛け合わせることで、その分のCO2排出量も計算上下がります。これは省エネ法が定期報告で使う「エネルギー消費原単位」の考え方とも整合します。つまり遮熱塗装は、電気使用量という切り口から見れば、省エネ法やSDGsの文脈で語られる「脱炭素」と地続きの対策です。ただし、原単位改善への寄与度は、建物の空調負荷全体に占める「屋根からの日射熱」の割合に比例します。ここが、次に述べる「向かない条件」につながる論点です。

効きやすい建物・効きにくい建物

すべての工場・倉庫で同じだけ効果が出るわけではありません。遮熱塗装の効果を左右する主な条件は、次のように整理できます。

条件

遮熱塗装の効きやすさ

屋根が鋼板・スレートなど熱を伝えやすい素材で、直射日光を強く受ける

効きやすい(表面温度差がそのまま室内側の熱負荷差になりやすい)

断熱材が薄い、または経年劣化している

効きやすい(屋根からの熱の遮断を塗装だけで補う形になる)

断熱性能が既に高く、室温上昇の主因が生産設備の発熱にある

効きにくい(屋根を冷やしても設備からの発熱は変わらない)

屋根の防水層自体が劣化し、雨漏りのリスクを抱えている

遮熱より先に防水・下地の修繕を優先すべき状態

特に4つ目は見落とされがちです。防水層が傷んだ屋根に遮熱塗装だけを行うと、表面温度は下がっても雨水の侵入経路は残ったままになり、後になって別途の修繕費用が発生します。省エネの投資対効果を考えるときほど、先に「屋根の下地は健全か」を確認する順番が重要です。

省エネ法・Scope3対応として遮熱塗装をどう位置づけるか

大手取引先から排出量データの提供を求められた場合、遮熱塗装単体で数値を大きく動かせるとは限りません。屋根面積、既存の空調方式、稼働時間帯によって寄与度は変わるため、まず自社の電力使用量の内訳(生産設備・空調・照明など)を把握し、そのうち空調が占める割合と、空調負荷のうちどれだけが屋根からの日射熱に由来するかを、可能な範囲で切り分けることが先になります。遮熱塗装は、この切り分けの結果「屋根からの日射熱が主要因」と分かった場合に、費用対効果の高い選択肢として位置づけられます。

なお、環境省は工場・事業場の脱炭素化に向けた設備投資を後押しする「工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業」などの支援策を継続的に実施しており、2024年度には約40件が採択されています。こうした公的な補助制度は年度ごとに要件や採択枠が変わるため、活用を検討する場合は最新の公募要領を確認する必要があります。当社は空調・塗装工事に加え補助金申請サポートも事業として行っているため、遮熱塗装の検討にあわせて、利用可能な制度の有無を相談窓口で確認いただくことができます。

導入前に確認しておきたいチェックリスト

  • 屋根材の種類(金属・スレート・コンクリート等)と、現在の劣化・防水状態
  • 過去の雨漏り・結露トラブルの有無(先に修繕が必要かどうかの判断材料)
  • 空調負荷のうち、屋根からの日射熱が占めるとみられる割合(真夏の屋根裏温度と室温の差などから推測できる)
  • 断熱材の有無・劣化状況
  • 取引先から排出量データの提供を求められているか、その場合どの範囲(Scope1・2・3)の情報か
  • 利用できる可能性のある国・自治体の脱炭素関連補助制度の有無

このうち最初の2項目は、遮熱塗装を検討する前に確認しておくべき事項です。屋根の健全性を後回しにしたまま塗装だけを進めると、期待した省エネ効果が得られても、雨漏りという別の問題が残ってしまいます。

よくある質問

Q. 遮熱塗装をすれば省エネ法の報告義務がなくなりますか。

A. いいえ。報告義務の有無は事業者全体のエネルギー使用量で決まるものであり、屋根の塗装によって義務そのものが変わることはありません。遮熱塗装が寄与するのは、報告の中身である「エネルギー消費原単位」の改善であり、義務の有無とは別の話です。

Q. 冬は暖房負荷が増えて逆効果になりませんか。

A. 屋根からの日射熱を冬場の暖房に活用している建物では、遮熱塗装によって冬季の暖房負荷がわずかに増える可能性があります。年間を通じた収支で判断したい場合は、冷房期間と暖房期間それぞれの空調使用実態を確認したうえで検討することをおすすめします。

Q. どのくらいの期間で効果が出ますか。

A. 表面温度の低下自体は施工直後から生じますが、電気代や排出量への効果を実感するには、少なくとも一夏の運用データと比較する必要があります。前年同時期の電力使用量と比較できるよう、施工前のデータを残しておくことをおすすめします。

読者への問いかけ

自社の工場・倉庫で、空調にかかる電力のうちどれだけが「屋根からの熱」に起因しているか、把握できているでしょうか。もし把握できていない場合、遮熱塗装の検討はその把握から始めることになります。取引先からの排出量データ提供の要請を受けたことがある方は、どの範囲の情報を求められたか、社内で共有しておくと今後の対応がスムーズになります。

関連する記事

遮熱塗装については、これまでも次の各記事で扱ってきました。あわせてご覧いただくと、今回のSDGs・省エネ法の観点との関係が理解しやすくなります。

相談窓口

屋根の状態や空調負荷の内訳を確認したうえで、遮熱塗装が自社にとって費用対効果の高い選択肢かどうかを判断したい場合は、株式会社IES(https://ies-japan.co.jp/)にご相談ください。屋根の防水状態の確認から、遮熱塗装の要否判断、利用可能な補助制度の確認まで、あわせて対応しています。

著者情報

株式会社IES(京都市下京区)。空調・電気・管・塗装・大規模修繕工事、FA事業・省人化設備、補助金申請サポート、省エネコンサルタントを手がけています。お問い合わせは ies-kyoto@ies-japan.co.jp まで。

参考文献・出典

  1. 環境省「温室効果ガス排出量及び吸収量算定結果」 URL: https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/emissions/ 参照日: 2026年9月7日
  2. 日本塗料工業会「省エネ・ヒートアイランド対策・地球温暖化防止 遮熱塗料」 URL: https://www.toryo.or.jp/jp/anzen/reflect/reflect-leaflet-2025.pdf 参照日: 2026年9月7日
  3. 資源エネルギー庁「工場等判断基準等ワークショップ資料(改正省エネ法・定期報告等)」 URL: https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/factory/support-tools/data/kojo-kinyuyoryo24.pdf 参照日: 2026年9月7日
  4. SOLAR JOURNAL「環境省の新年度事業を徹底解説! 工場や事業場の脱炭素化支援策のポイント」 URL: https://solarjournal.jp/policy/59192/ 参照日: 2026年9月7日
  5. zeroboard「サプライチェーン排出量とは?Scope1・2・3の違いと実務で押さえるポイント」 URL: https://www.zeroboard.jp/column/988 参照日: 2026年9月7日
  6. 資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルを見据えた2030年に向けたエネルギー政策の在り方」 URL: https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/042/042_004.pdf 参照日: 2026年9月7日
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