「休憩所」は福利厚生ではなく、法令上の安全衛生設備である
工場や倉庫で休憩所の整備を検討するとき、多くの場合は福利厚生予算の一項目として扱われる。だが労働安全衛生規則を見ると、休憩の設備は「あれば望ましい福利厚生」ではなく、労働者の安全衛生に関する法令上の規定として位置づけられている。まずこの位置づけを押さえておくと、整備の優先順位を判断する軸がぶれにくくなる。
努力義務と義務、2つの規定を混同しない
労働安全衛生規則第613条は、次のように定めている。
事業者は、労働者が有効に利用することができる休憩の設備を設けるように努めなければならない。
これは全業種に適用される努力義務であり、「設けなければならない」ではなく「設けるように努めなければならない」という表現になっている。一方、同規則第614条は次のように定める。
事業者は、著しく暑熱、寒冷又は多湿の作業場、有害なガス、蒸気又は粉じんを発散する作業場その他有害な作業場においては、作業場外に休憩の設備を設けなければならない。
こちらは「設けなければならない」という義務規定であり、対象も「作業場外」の休憩設備に限定される。つまり、自社の作業場が炉やボイラー周辺、金属加工・鋳造工程、冷凍冷蔵倉庫、粉じんの飛散する工程など、第614条が挙げる「著しく暑熱、寒冷又は多湿」「有害なガス、蒸気又は粉じんを発散する」作業場に該当するかどうかで、休憩設備の整備は努力義務から義務へと切り替わる。ここを確認せずに「休憩室はあるから大丈夫」で済ませてしまうと、義務規定の対象になっているかどうかの判断が抜け落ちる。まず自社の各工程がどちらの規定に当たるかを洗い出すことが、休憩所整備を検討する際の最初の判断基準になる。
令和7年、職場の熱中症死傷者数は統計開始以来最多を更新した
厚生労働省が令和8年5月27日に公表した確定値によれば、令和7年(2025年)に職場で熱中症により死亡または休業4日以上となった労働者数は1,803人で、前年より546人(約43%)増加し、統計開始以来最多となった。死亡者数は19人で前年より12人少なかったものの、休業4日以上を含めた被災者数全体は大きく増えている。
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署は、平成21年6月19日付け基発第0619001号「職場における熱中症の予防について」という通達に基づき、熱中症予防対策の一つとして「休憩場所の整備」を明記している。具体的には、高温多湿作業場所の近隣に冷房を備えた休憩場所や日陰などの涼しい休憩場所を設けるよう努めることを、事業者向けの自主点検項目として挙げている。第614条が定める「作業場外の休憩設備」の義務は、この行政の考え方とも整合する。第613条の努力義務にとどまる作業場であっても、高温多湿な工程を一部でも含むのであれば、この自主点検項目に照らして休憩場所の温熱環境を確認する価値はある。
労働災害の原因分析から見える、休憩所の位置づけ
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、労働災害原因の分析(平成22年)として、労働災害全体の94.7%が「不安全な行為」または「不安全な状態」のいずれかに関連していると説明されている。休憩所そのものがこの数値を直接動かすわけではないが、前述の熱中症予防対策では、休憩場所に体温計や体重計を備えて身体の状況を確認できるようにすることや、睡眠不足・体調不良が熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることが、健康管理の項目として挙げられている。つまり休憩所は、単に涼を取るためだけの場所ではなく、労働者の体調変化に気づくための接点としても位置づけられている。
「効果」をどう見るか——実際に整備した企業の一例
当社の休憩所の設置サービスのページでは、実際に休憩所を整備した企業で得られた効果の一例として、離職率が約30%から16%に低下した例、午後の時間帯のミスや事故の減少、従業員満足度アンケートでの評価向上が紹介されている。これは第三者機関による検証を経た数値ではなく、当社が把握している事例の一つであり、同じ幅の改善がすべての現場で再現されることを示すものではない。
効果の大小を左右するのは、休憩所という箱を用意すること自体よりも、実際にどれだけ利用されるかである。動線が遠く実質的に休憩を取りにくい配置になっていないか、温熱環境が改善されていない場所に「休憩所」の看板だけを掛けていないか——整備後にこの2点を確認できるかどうかが、効果の出方を左右する分かれ目になる。
整備を急ぐべきかどうかの判断基準
すでに空調の効いた食堂や更衣室があり、動線上も利用しやすい場所に確保できている職場であれば、新設よりもまず、既存スペースの座席数や温熱環境の見直しを優先したほうが投資対効果は高くなりやすい。逆に、前述の第614条に該当するような高温多湿・有害な作業場を抱えながら、作業場外に休憩設備がない、あるいは実質的に機能していない状態であれば、法令上の位置づけからも優先度は高いと考えられる。
自社で確認する際の判断材料としては、
①各工程が労働安全衛生規則第614条の対象に当たるか
②既存の休憩スペースが厚生労働省の自主点検項目(冷房設備・涼しい環境・水分塩分補給のしやすさ等)を満たしているか
③実際の利用状況(動線・利用しやすい時間帯)に無理がないか
の3点を確認することから始めるとよい。
おわりに
当社(IES)では、空調・電気・塗装などの工事を通じて工場・倉庫の職場環境の改善に携わる中で、休憩所の設置についても現場の状況に応じたご相談を承っている。まずは自社の各作業場がどちらの規定に該当するか、既存の休憩スペースが自主点検項目を満たしているかを確認いただき、必要に応じてお問い合わせいただきたい(連絡先:ies-kyoto@ies-japan.co.jp)。
参考文献・出典
- 労働安全衛生規則 第613条・第614条(条文引用元:労働新聞社「労働法検索」 https://www.rodo.co.jp/laws/117234/ )
- 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「職場における熱中症の予防について」(平成21年6月19日付け基発第0619001号に基づく熱中症予防対策リーフレット) https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/ic_rma/2301/mat05_3.pdf
- 厚生労働省「令和7年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」(令和8年5月27日公表) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73330.html
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「不安全な行為」 https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo90_1.html
- 株式会社IES公式サイト「休憩所の設置」サービスページ https://ies-japan.co.jp/services/resting-area/