屋根や外壁に光る白い塗膜を見て、「これでCO2が減るなら分かりやすい」と感じたことがある方は多いはずです。実際、遮熱塗装は省エネ関連の記事や制度資料でたびたび「CO2削減策」として名前が挙がります。前回の記事「省エネ法とサプライチェーン開示の時代、遮熱塗装は何に効くか」では、省エネ法対応やScope3開示といった制度・報告の文脈を扱いました。今回はその続きとして、制度の話はいったん脇に置き、遮熱塗装が実際にどういう経路でCO2排出を減らすのか、その量はどの程度の規模になり得るのかという、削減効果そのものに焦点を当てます。
この記事でわかること
この記事では、遮熱塗装がCO2を減らす仕組みを物理現象と製品仕様に分けて整理し、公表されている実証データをもとに削減量の桁感をつかむ計算方法を示します。あわせて、削減効果が大きく出る条件と小さくしか出ない条件の両方を具体的に挙げ、断熱強化や設備更新、電源の脱炭素といった他の選択肢との位置関係も整理します。読み終えたときに、自社の工場・倉庫にとって遮熱塗装がCO2対策の中でどの程度の重みを持つ手段なのか、電卓で当たりをつけられる状態を目指します。
「なんとなく効きそう」を卒業する
工場や倉庫の管理担当者から聞かれる相談の多くは、「屋根を塗ればCO2はどれくらい減るのか」という一点に集約されます。ところが、遮熱塗装を紹介するページの多くは「省エネに貢献します」「環境にやさしい選択です」という表現にとどまり、具体的な数字にまで踏み込んでいる例は多くありません。数字が示されないまま導入を決めると、後になって「思ったほど電気代が下がらない」という失望につながりかねず、それは遮熱塗装そのものの評価を不当に下げることにもなります。CO2削減量は、屋根面積・断熱の有無・空調の稼働時間・電力の排出係数という複数の変数の掛け算で決まるため、建物ごとに数字が大きく変わって当然です。むしろ「一概には言えません」で終わらせず、その変数を読者自身が当てはめられる形で示すことに、この記事の意味があります。
遮熱塗装を扱う立場から、最初に切り分けておきたいこと
当社は遮熱塗装・雨漏り修繕・結露防止塗装を軸に、空調・電気・管・塗装の工事や省エネコンサルティングを手がけています。遮熱塗装では、日射反射率と放熱性を高めた塗料「エシカルプロクール」を扱っており、屋根用高日射反射率塗料の規格であるJIS K 5675(1種LG級)の認証を標準色22色すべてで取得していると当社公式ページでも公表しています。この認証が評価するのは、2年間の屋外暴露試験を通じて割れ・はがれ・膨れ等が生じないことであり、日射反射率そのものの高さを直接証明するものではありません。反射率を初期値に近い状態で長く保てるかどうかは、塗膜への汚れの付きやすさにも左右されます。この点について、メーカー(エシカルオフィシャルパートナーズ)のカタログは、エシカルプロクールを平滑性のある滑らかな塗膜による超低汚染タイプと説明しており、厚塗りでザラつきのある一般的なセラミック系塗料に比べて汚れが付きにくいとしています。この点を踏まえたうえで、以下では「確立された物理現象として言えること」と「メーカー・当社の公表値として言えること」を分けて説明します。
屋根の反射からCO2削減まで、経路を分解する
反射という物理現象
太陽光のうち、体感される熱の多くは近赤外線として届きます。物体の色や表面状態によって、この近赤外線をどれだけ反射するか(日射反射率)が変わることは、塗料・建材分野で学術的に確立した現象です。日射反射率が高い塗膜ほど、太陽光のエネルギーを吸収せずに跳ね返す割合が増え、結果として屋根材自体が吸収する熱量が減ります。ここまでは物理現象として断定できる部分です。
反射するだけでなく、ためない仕組み
当社が扱うエシカルプロクールについて、当社公式ページで公表している性能値は、日射反射率が最大86.80%(白色)、熱伝導率0.39W/m・Kで、屋根表面温度を約20〜25℃、室内温度を約2〜7℃低減するというものです。同ページで、この製品の断熱塗料とは異なる設計を、熱を反射するだけでなく、たまった熱を速やかに逃がすことで「熱ごもり(蓄熱)」を防ぐ、という2つの機能を持つと説明しております。メーカー(エシカルオフィシャルパートナーズ)の製品カタログでは、この温度抑制の結果として空調負荷を約10〜35%削減する効果が確認されているとしています。この「反射」と「放熱」を分けて考える点は、遮熱と断熱を混同しないために重要な整理です。これらの数値はメーカー・当社の公表値であり、独立した第三者機関による学術的な検証データとしては確認できていません。当社では、施工先へご提出する報告資料を作成するため、以前から施工前後や施工箇所・未施工箇所に計測器を設置して温度データを実際に取得しており、そうした自社の実測にもとづいてメーカーの公表データに納得したうえで採用しています。次項で示す環境省の実証事業データは、エシカルプロクールそのものではなく同じ「屋根用高反射率塗料」という区分の別製品を対象にしたものですが、第三者による検証を経た数字として、削減規模のレンジをつかむ手がかりになります。
電気代からCO2へ変換する計算式
屋根表面温度が下がり、室内に入る熱が減れば、冷房が室温を維持するために使う電力(冷房負荷)が減ります。この電力削減量に、電力の排出係数(1kWhの電力使用に伴うCO2排出量)を掛け合わせたものが、CO2削減量です。式で表すと次のようになります。
CO2削減量(kg)= 冷房電力の削減量(kWh)× 電力の排出係数(kg-CO2/kWh)
電力の排出係数は電力会社や年度によって異なります。電気事業低炭素社会協議会が2025年4月に公表した2023年度実績(確報値)によれば、電気事業全体の調整後排出係数は0.422kg-CO2/kWhで、前年度(2022年度)の0.437kg-CO2/kWhから改善しています。この係数は年々小さくなる傾向にあるため、同じ電力削減量でも、算定に使う年度によってCO2削減量の見え方は変わります。試算をするときは、自社が契約している電力会社が公表している排出係数を使うのが最も正確です。
削減率は0.6%か、22%か——数字の幅をどう読むか
ここからが、この記事で最も伝えたい部分です。遮熱塗装によるCO2削減効果を具体的な数字で示した公的な実証データを見ると、建物条件によって驚くほど幅があることが分かります。
環境省の実証事業が示した、工場全体で見た数字
環境省の環境技術実証事業(ヒートアイランド対策技術分野・建築物外皮による空調負荷低減等技術)では、屋根・屋上用高反射率防水仕上塗料を対象に、東京・大阪のモデル工場を想定した数値計算が行われています。この報告書によれば、一般塗料からの塗り替えによる屋根表面温度の低下量は夏季14時で1.3℃、冷房負荷の削減効果は工場全体の電力使用量に対して夏季1か月で0.6〜0.7%、夏季6〜9月の期間で0.7%と示されています。一方、屋根から大気へ逃げる昼間の対流顕熱量(屋根面での熱のやり取り)に限れば7.0〜7.1%の低減効果があるとも報告されています。つまり、屋根そのものでは確かに7%規模の熱の出入りが変わっているのに、工場全体の電力使用量で見ると0.6〜0.7%まで薄まる、ということです。これは、生産設備など屋根とは関係のない電力消費が工場全体では大きな割合を占めるために起きる希釈であり、遮熱塗装そのものの効果が乏しいことを意味するわけではありません。
断熱のない実験小屋が示した、大きな数字
一方、塗料メーカーのアステックペイントが公開している実証実験では、まったく異なる規模の数字が出ています。茨城県古河市に設置した床面積13平方メートルの断熱材なしプレハブ小屋3棟を用いた2023年の実験で、遮熱塗装(白色)を施した小屋は無塗装の小屋に比べて屋根表面温度が最大18.8℃、天井温度が最大4.4℃低下し、2023年8月5日〜9月1日の冷房電力使用量は22.3%削減されたと報告されています。同じ「遮熱塗装」というくくりでも、環境省の工場モデルとは一桁以上異なる削減率です。
二つの数字を分ける条件
この違いを生んでいるのは、主に次の3点です。第一に、断熱の有無です。断熱材のない金属屋根・金属壁の小屋は、屋根から入る熱がそのまま室温を左右するため、屋根の遮熱効果がダイレクトに現れます。断熱が入っている建物では、そもそも屋根から入る熱の割合自体が小さくなります。第二に、建物内の他の熱源です。生産設備や照明、人員など、屋根とは無関係に発生する熱・電力消費が大きい工場ほど、屋根対策の相対的な影響力は小さくなります。第三に、算定の分母です。「冷房負荷だけ」を分母にするか、「工場全体の電力使用量」を分母にするかで、同じ削減量でも見かけの削減率は大きく変わります。したがって、削減率の数字だけを見て「効く・効かない」を判断するのではなく、まず自社の建物が断熱材なしの金属屋根に近いのか、それとも断熱と設備発熱が支配的な建物なのかを見極めることが、遮熱塗装の効果を正しく見積もる出発点になります。
他の脱炭素の選択肢と比べて、遮熱塗装はどこに位置するか
遮熱塗装が働きかけるのは、あくまで「屋根から入る熱」という一つの経路です。工場・倉庫のCO2排出を減らす手段としては、他に大きく3種類が挙げられます。ひとつは断熱の強化(屋根裏・壁の断熱材追加)で、これは屋根からの熱の出入りそのものを抑える方向のアプローチです。ふたつめは空調・照明などの設備更新で、老朽化した機器を効率の良いものに替えることによる削減です。みっつめは電力の調達先を再生可能エネルギー由来に切り替えるなど、電源側の脱炭素で、これは使用電力量を変えずに排出係数そのものを下げるアプローチです。遮熱塗装は、このうち「建物側で熱の入り口を減らす」対策の一つであり、初期費用や工事の負担が比較的軽く、老朽化した屋根の防水・美観維持と同時に検討しやすいという位置づけになります。ただし前段で見た通り、その効果の大きさは断熱の状況や設備発熱の割合に強く左右されるため、「まずは遮熱塗装から」と一律に決めるのではなく、自社の熱の出入りのどこが支配的かを確認したうえで、他の3つの選択肢と組み合わせを検討するのが実務的な順序です。
自社の工場・倉庫で確認すべきこと
遮熱塗装によるCO2削減量を自社なりに見積もるために、次の点を確認しておくことをおすすめします。
- 屋根・壁に断熱材が入っているか。入っていない金属屋根・金属壁の建物ほど、屋根対策の効果は出やすくなります。
- 夏場の室温上昇が、屋根からの日射熱によるものか、生産設備の発熱によるものかを、可能であれば温度・時間帯のデータで切り分けてみる。
- 冷房用の電力が、建物全体の電力使用量のどれくらいの割合を占めているか。生産設備の比率が大きいほど、屋根対策の全体への寄与は小さくなります。
- 契約している電力会社が公表している最新の排出係数を確認する(自社で算定する際は、環境省・経済産業省が公表する電気事業者別の係数を使うのが正確です)。
- 屋根の防水・美観の維持など、CO2削減以外に得られる価値も含めて検討する。
これらを確認したうえで、屋根からの日射熱が室温上昇の主要因だと判断できる場合は、遮熱塗装は費用対効果の面で検討に値する選択肢になります。逆に、断熱が十分に入っており、暑さの主因が屋内の設備発熱にある建物では、屋根を遮熱塗装に変えても体感・電気代・CO2排出量のいずれも変化は小さくなります。その場合は、断熱の見直しや設備更新を先に検討するほうが、投じた費用に見合う結果につながりやすくなります。
読者への問いかけ
自社の屋根が金属屋根で断熱材が入っていないという方、あるいは逆に断熱はしっかりしているのに夏場の電気代が下がらず悩んでいるという方、それぞれで検討すべき順番は変わってきます。もし社内でCO2排出量の内訳(電力使用量の用途別データ)をすでにお持ちであれば、その数字と本記事の計算式を突き合わせるだけでも、遮熱塗装がどの程度の意味を持つか、当たりをつけることができます。
あわせて読みたい
制度・報告の観点から遮熱塗装を扱った前回記事もあわせてご覧ください。省エネ法とサプライチェーン開示の時代、遮熱塗装は何に効くかでは、省エネ法対応やScope3(サプライチェーン排出量)開示の文脈での遮熱塗装の位置づけを扱っています。
遮熱塗装という選択肢について
当社は、屋根用高日射反射率塗料「エシカルプロクール」による遮熱塗装を、雨漏り修繕・結露防止塗装とあわせて扱っています。本記事で示した通り、CO2削減効果の大きさは建物条件によって変わるため、まずは屋根面積や断熱状況、現在の空調電力使用量といった情報をもとに、自社の建物にとってどの程度の効果が見込めるかを確認するところから始めるのが実務的です。屋根の劣化状況の確認や、断熱・設備更新との組み合わせも含めた相談については、当社の遮熱塗装サービスのページ、または株式会社IESの公式サイトからお問い合わせいただけます。
株式会社IESについて
株式会社IES(京都市下京区)は、空調・電気・管・塗装・大規模修繕工事、FA事業・省人化設備、補助金申請サポート、省エネコンサルタントを手がけています。遮熱塗装・雨漏り修繕・結露防止塗装を中心に、工場・倉庫の建物・設備に関するご相談を承っています。お問い合わせは ies-kyoto@ies-japan.co.jp までご連絡ください。
参考文献・出典
- 環境省「平成25年度環境技術実証事業 ヒートアイランド対策技術分野 建築物外皮による空調負荷低減等技術 実証試験結果報告書」 URL: https://www.env.go.jp/policy/etv/pdf/list/h25/051-1324b.pdf 参照日: 2026年9月11日
- アステックペイント「【実験検証】遮熱塗装による温度変化と省エネ効果|工場・倉庫の暑さ対策」 URL: https://astec-factory.com/info/2025/05/29/hr_experiment/ 参照日: 2026年9月11日
- 電気事業低炭素社会協議会「2023年度CO2排出実績(確報値)について」 URL: https://e-lcs.jp/news/2025/04/2023co2-1.html 参照日: 2026年9月11日
- 株式会社IES「遮熱塗装」サービスページ URL: https://ies-japan.co.jp/services/heat-shield-coating/ 参照日: 2026年9月11日
- 株式会社IES「エシカルプロクール」製品ページ URL: https://ies-japan.co.jp/products/ethical-procool/ 参照日: 2026年9月11日
- エシカルオフィシャルパートナーズ「Ethical Procool(エシカルプロクール)製品カタログ No.4」(2021年7月発行) URL: https://ethical-p.jp 参照日: 2026年9月11日